AI時代に生き残るヒント

2017.09.23 Saturday

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JUGEMテーマ:新書

 

 

AI(人工知能)の出現により、近い将来に広い範囲で職を失うと言われている今日、私も含めて戦々恐々の思いで未来を

見つめている人も少なくないと思います。変化の激しいこれからの時代に生き残るには、どういう能力を身に付ける必要が

あるのか。子どもがいる方にとっては、教育方針に大きく影響するだけに、興味を抱かざるを得ないテーマだと思います。

 

キーになるのは、ICTを軸に日々変化するテクノロージーに対して、どういう姿勢で向き合っていくかということ。

ICTが社会の隅々まで広がって私たちの仕事や生活への影響が免れない現在、変化に対して前向きな姿勢で臨めるかどうかで、

AI時代の生き残りが決まることは、薄っすら理解できるのですが、具体的にどうすればよいのか分からない方も多いのでは。

 

そんな方にお薦めしたいのが、この一冊。90年代のIT隆盛期に日本マイクロソフトを率い、現在は書評サイト「HONZ」代表を

務める成毛眞氏は多読家で知られ、読書関連や自身の経験を踏まえた数多くの作品を執筆されています。AI時代のサバイバルと

いう分野では、まさに第一人者だと思います。今回は「理系脳」という切り口で、今後求められる人材像を提示しています。

 

まずは、「理系脳」の4つの条件が示されています。「理系脳」と言われると、理数系に強いという特徴が必須と思いますが、

必ずしもそうではないようです。正直、自分に当てはまる項目が少なからずあり、勇気づけられました。新しいものや変化を

好む点は何となくイメージできますが、他の条件はこれまでの企業戦士に求められる要素の逆を張るもので、驚きでした。

 

そこから、理系脳を持った著名人の紹介や具体的な思考法、コミュニケーションの図り方、SNSの活用法等、参考になることが

次々と綴られており、論理的で読みやすい文体と相まって予想以上に早い読了となりました。コミュニケーションでは仕事柄、

どうしても表情を窺わなければいけないことが多いのですが、合理性がいかに重要かを改めて認識することができました。

 

また、最先端に触れ続けることが理系脳を育むためには必要なことも理解できましたが、さすがにiphone9は11万円と言う

高級デバイスになるようなので、手が出ないなと思っています。先端技術で何ができるのかを実感することの重要性が認識

できただけでも、「文系脳」からの脱却第一歩にはなるかなと思っています。新たな可能性のきっかけになる一冊でした。

 

トランプ大統領を生んだ背景の潮流

2017.09.17 Sunday

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JUGEMテーマ:新書

 

 

まさかのトランプ氏当選で大きな注目を集めた米大統領選から、早いものでもう1年が過ぎようとしています。

あの時の驚きは今でも鮮明に残っていて、良くも悪しくもある種の興奮を強く感じました。そのトランプ氏は今、

暴発寸前の北朝鮮問題でその手腕が世界中から問われています。英国ではEU離脱(Brexit)を巡って、未だに

国内世論は分裂状態。フランスでは、大統領選の度に極右のルペン氏の伸長が注目されています。

 

日本でも、2000年代に入って保守化が急速に進行したと言われています。確かに、僕たちが子どもの頃には

「愛国心」など口にしてはいけない雰囲気が強かったのに、今ではすっかり様変わり。個人的には、ある意味で

健全な世の中になったと感じない訳でもないですが、この流れは日本だけでなく世界レベルで起きていることは、

すでにご存知の方も多いはず。では、この「世界総保守化」の流れはどうして起きたのでしょうか。

 

歴史をどこまで遡るかにより、見てくる現象も異なりますが、やはり冷戦の終結が大きな分岐点だと思います。

米英では、80年代に経済政策と対ソ戦略の転換を図るタカ派的な路線が支持を集め、世界に先駆けて新自由主義

を積極的に推進。進歩主義(リベラル)の後ろ盾だった社会主義が崩壊すると、それまで世界の大きな潮流を

担ったリベラルが退潮を始めました。これにより、世界中で地滑り的に保守化の流れが広がることに。

 

とは言え、この「保守」という概念が実はかなり曖昧で、一昔前まではリベラルに対する一種のアンチテーゼと

認識していた人も少なからず。かく言う私もそうでした。ところが、小さな政府を標榜する新自由主義が世界を

席巻する現在、保守主義がそれとイコールだと思われているようです。言葉の意味合いや歴史的な経緯を考える

と、本来は違うはずではと思うのですが、実際に起きている現象を見ると、そう思うのも無理からぬことです。

 

昨今の情勢を見て、トランプを生んだ潮流であり、今後の政治思想の軸となる保守主義の正確な概容を知る必要が

あると思い、本書を手に取りました。出版されたのは昨年ですが、本来の保守主義が持つ有効性を感じられる意味

で、優れてタイムリーな一冊だと思いました。新自由主義と保守主義は、共通する要素も持ち合わせていますが、

後者が歴史を踏まえた謙虚さを人間に求めている点は、格差を増長する前者と大きく異なる点だと思います。

 

詳細については本書にあたってほしいのですが、リベラルも新自由主義も少なからず人工的な要素が強い思想が

背景にあり、それらの綻びが人々の不信や不満を買っており、そのことが保守化を後押ししている点も否定でき

ません。反フランス革命の論陣を張ったバークをはじめ、保守主義の歴史を担った賢人たちの声には、今だから

こその説得力が。今の時代に大平正芳元首相のような存在がいたら、政治の風景はもっと違っていたでしょう。

 

個人的には、安倍首相が進める方向性に大きな意味で誤りがあるとは思っていませんが、残念ながらその考え方

には歴史的な思考を深めた形跡や過去の賢人の見解や取り組みを広く受け止める姿勢は、あまり感じられず。

日本のみならず、今後の世界の方向性をについて改めて考える上でも、著者が示す保守主義の在り方を知ることは、

少なからず有益だと思います。非常に読みやすい内容なので、ぜひご一読をお薦めします。

 

 

海賊国家での未知なる冒険譚

2017.09.10 Sunday

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JUGEMテーマ:オススメの本

 

 

今年は早いもので、9月に入って夏も終わりを迎える感でした。夏と言えば旅や冒険の季節だけに、読書でもそうした経験を

綴った作品に心動かされます。特に自分が行ったことがないエリアについては、興味津々。本作は「クレージージャーニー」

にも出演した冒険家が、海賊国家として知られるソマリアを訪ねた冒険譚で、文庫化を待ち望んでいた一冊でした。

 

著者の高野秀行氏は、「人が行かない場所に行く」をモットーに世界各地を訪れる冒険ジャーナリスト。これまでにアヘンの

栽培地やブータンなどの秘境を訪れ、度々危ない目に遭いながらも、ユーモア溢れるテイストで数々の作品を発表してきました。

私にとって本作が初めて読了した作品となり、その厚さに苦闘しながら充実の読了感を味わうことができました。

 

ソマリアと一言で言っても、実は3つの地域(国家)に分かれていることを初めて知りました。元々は一つの国でしたが、

1991年のクーデターを機に国家が分裂状態に。その中で北部のソマリランドは、これまでの経験を糧に徐々に民主的な政体を

築き上げました。南部での混乱をよそに、現在では着実な成長を遂げており、その勢いは日本を遥かに凌ぐようなのです。

 

普通ならソマリランドの実態がある程度わかった段階で、取材終了となるはずですが、高野氏は「それではソマリアの真の

実態を理解したことにはならない。」と、再度ソマリを訪問。今度は危険が差し迫る南部のプントランドを中心に、様々な

エリアを直撃取材することに。海賊国家の真の実態と海賊行為をせざるを得ない背景に迫ります。

 

表面的な事象だけでなく、ソマリ人の気質や国の歴史・風土にも深く迫る取材は、まさにリアリティーが強く感じられます。

と言っても、氏の取材姿勢は決して堅苦しいものではなく、相手の懐に深く入り込む(と言うより友達になる)もので、実に

痛快な出来事の連続。その中で、ふと目にしたシリアスな現場や人々の姿から、等身大のソマリを見せる手腕にはお見事‼

 

日本から見て、アフリカ諸国の実態は分からないことが実に多いと改めて感じました。一昔前までアフリカと言えば、飢餓の

連続で極端に貧しいイメージでしたが、現在は経済発展が著しい国も少なくありません。貧富の差は未だに大きいのでしょうが、

国際社会の変化に疎いのは、未だに日本人の弱点。それを補うのに、本書のようなルポは貴重な存在です。

 

期待の次世代が綴る最高傑作

2017.08.19 Saturday

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JUGEMテーマ:小説全般

 

 

ここ数年、次世代を担う作家の作品に注目しています。高い評価を得ている著名な作家の作品はとても魅力的で、その世界に

惹き込まれることが分かっているので、安心して浸れる良さがありますが、新たな作家の魅力を見つけた時の喜びは、何もの

にも代えがたい思いがあります。そんな作家の一人に、中村文則がいます。

 

きっかけは、俳優・綾野剛が帯で薦めていた「掏摸」が書店で気になったこと。何度か見掛けるうちに、手に取って眺めると

面白そうだと感じ、「銃」と併せて購入。先に読み始めたのは「銃」からでしたが、人間の暗部や悪の中で細やかに輝く光を

求めて蠢く主人公の姿や心理を通じて、人間と社会の本質に迫る氏の作品の魅力にハマってしまいました。

 

本作は氏の作品でも本格的な長編小説で、単行本発売時はメディアでも話題となりました。フジテレビの深夜番組に氏が出演

した際にも紹介され、文庫化されたら必ず購入して読破したいと思っていました。6月に文庫が発売され、先月の多忙な合間

を縫いながら、寝る前の一時に氏の世界観に浸る時間を過ごしてきました。600頁ほどのボリュームをようやく読了です。

 

タイトルにある通り、物語の舞台は2つの新興宗教。恋人の突然の失踪に謎を感じた主人公が、彼女を追う過程で遭遇した

宗教団体と、その教祖を巡る関係者が幹部を務めるもう一つの宗教団体。前者は宗教と言うよりも、教祖の松尾を中心とした

緩やかなサークルといった雰囲気ですが、後者は屈折し退廃した教祖・沢渡が率いる危険な雰囲気で、対照的な存在です。

 

松尾と沢渡がなぜ、教祖となったのか。そこで展開されている活動と根底にある社会観は、類似する点もあるのですが、人間

の可能性に対する信頼という点では非常に対照的。ただ、松尾が展開する独自の人間観には、かなりドライで科学的な要素が

強いので、その点に違和感を感じる方もいるかもしれません。沢渡率いる「教団X」のそれは、こちらと真逆です。

 

氏の作品で必ずモチーフとして出てくるのが、性的な要素。確かに、人間の本質に迫ると性的要素は避けて通れないテーマで

はありますが、教団Xのベースには性の解放があるだけに、詳細な描写が次々と現れます。それに眉を顰める方もいると思い

ますが、あくまでも物語全体のモチーフを見て頂ければ、氏が伝えたいメッセージが理解できるはずです。

 

詳細は本書をお読み頂きたいのですが、最後にある松尾の妻・芳子のセリフこそが、氏が本書で最も伝えたいメッセージだと

思います。本書には政治的なメッセージも強く、理想主義的な主張には個人的に賛同できない部分もありますが、文学作品で

あることを考えると、こういう考えに触れることも意味があるでしょう。本書は間違いなく氏の最高傑作だと思いますので、

是非一度トライされることをお薦めします。新たな出会いに感銘を受けること必定です。

 

進化の視点で歴史の発展を見直す名著

2017.08.13 Sunday

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JUGEMテーマ:オススメの本

 

 

お盆休みを前に、先月から読み始めた名著の上巻をようやく読了しました。こちらも5年近く自室の本棚に積読状態

でしたが、読書通がお薦めする一冊にあげられていたことや、「サピエンス全史」読了で新たな刺激を受けたのを

きっかけに、トライすることに。現代を代表する古典の世界に、ついに誘われました。

 

著者のジャレド・ダイアモンドは、世界的に著名な進化生物学者であり生物地理学者。日本でも多くの著作が翻訳され、

ベストセラーになっています。歴史を進化の視点で捉えた視点から、多くの気づきが得られる点が高く評価されている

第一人者です。科学的な見地から歴史を見直すことで、漠然と理解していたことをクリアにしてくれます。

 

本書は欧米文化が世界を席巻し、現在も世界秩序の土台となっている点に疑問を持った著者が、進化生物学のフィールド

ワークとこれまでの研究成果を通じて、違った可能性がなかったのはなぜかを考察しながら、現在の歴史に至った理由と

背景に迫っています。当然だと思っていた前提が揺さぶるスタートに、科学者らしい姿勢を強く感じました。

 

実に手応えのある一冊ですが、知的好奇心が刺激される知見の連続。農耕技術を身に付けたことで、人類は飛躍的に発達

しました。農耕の起源はメソポタミアの肥沃三日月地帯ですが、農耕が広がった地域とそうでない地域の違いが、その後

の歴史の発展に大きな影響を与えました。最初は、恵まれた地域の幸運なスタートから始まることになりますが…

 

人口の稠密化で中央集権的な社会が構築され、集団として強力になります。加えて、そこに媒介する病原菌の蔓延と免疫

の拡張により、農耕社会が圧倒的な存在に。ユーラシア大陸の東西の広がりにより、西アジアからヨーロッパへと農耕が

伝播され、現代の世界を構築する素地が形成されます。一方で、南北へは気候変化による障害により伝播は限られました。

 

大航海時代を経て、アメリカ大陸やアフリカ大陸に進出した少数のヨーロッパ人が、現地の原住民を駆逐できた背景には、

圧倒的な軍事力だけでなく、彼らが体内に保有していた病原菌による功績がある模様。アジアでは、逆に彼らが被害者に

なる場面も。東南アジアや太平洋地域では、加えて海による断絶がその影響を限定的にしたようです。

 

地形や気候により、農耕技術の伝播が大きく異なった結果、それぞれの地域でその後の発展経過が大きく異なったことを、

非常に体系的かつ論理的に説く著者の見解に、ある程度は理解していたものの、改めて「なるほど」と思わされる連続。

ただ、類似の内容が繰り返される点は、評価が分かれるかもしれませんが、内容理解の助けにはなると思いました。

 

下巻では、こうして構築された中世までの世界が、現在の形態に至るまでにどういう経過を辿ったのか。上巻冒頭の問い

に対する違った可能性は、なぜ起こらなかったのか。更なる知的好奇心が満たされることを期待しながら、本格的な進化

と歴史のストーリーと格闘したいと思います。本編の完全読破には、もう少し時間が掛かりそうです…